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059:春とコショウ②
東南アジアや南アジアを旅行されたことがある方は、現地にてスパイスがふんだんに使われている料理を、たくさん食べられたことではないでしょうか。前回のメルマガにてご紹介した胡椒だけでなく、ナツメグやシナモン、ショウガ、カルダモン、コリアンダー(パクチー)など、アジア圏のエスニック料理がお好きな方は、その味を口の中で容易に想像できることかと思います。
香辛料がもつ辛味成分は、もともとは植物が病原菌や害虫から身を守るために蓄えているものだと言われております。気温が高い熱帯地域や、湿度が高いモンスーンアジアでは、病原菌や害虫が多いために、辛味成分を蓄える植物が豊富に育っているわけです。一方、冷涼なヨーロッパでは害虫が少なく、香辛料がありませんでした。
そんな冷涼で乾燥したヨーロッパの地では、古来よりイネ科の植物の草原が広がっていたのですが、イネ科植物の葉や茎は人の食糧にはならないので、乾燥させた牧草を家畜に与えていました。そして、過酷な冬が来る前に、その家畜の肉を、越冬の食糧としていたのです。今でこそ家畜の餌を冬でも供給できるようになりましたが、当時はもちろんそのような手段はなく、冬になる前に家畜を殺して肉にする以外の選択肢はなかったようです。
ちなみに家畜という言葉は英語で「livestock」なのですが、まさにこのように「生きた在庫」として扱われてきたわけですね、、、(少し前のアメリカの穀物量と豚の関係から、「緩衝役」としての家畜について書かれたレポートも面白かったです)。
そんな昔のヨーロッパでは、家畜を肉にしたもので冬を食いつがなくてはならなので、乾燥させたり、塩漬けにしたりと、どうにか保存できるように工夫がされてきたのです。そんな中、「肉を良質な状態でおいしく保存できるようになる」という香辛料の存在はまさに衝撃的だったようです。そして、先述したように、香辛料はヨーロッパになかったので、南インド(コショウって南インド原産なんですよね)から輸入するしかなかったわけでして、長い輸入ルートを運ばなければならない香辛料の価格はとても高くなったのです。中でもコショウは、金と同じ価値まで跳ね上がっていたらしいのです。今ではスーパーで数百円で手に入るコショウですが、当時のヨーロッパの人にとってはお値段も衝撃的ですよね、、、。
と、当時のヨーロッパの人々にとって暮らしを豊かにする香辛料もきっかけの一つとなり、航海時代が訪れて、世界各地が繋がっていくわけですが、同時に暗黒の奴隷貿易の時代も始まってしまったり、、、。オランダは、インドでの競い合う商社同士をまとめて東インド会社をつくったり、コショウの価格が下落した後には、東インド会社が次に目を付けた「茶/ティー」の貿易が盛んになったりと、コショウが歴史を大きく動かしていると知り、なんだか凄い香辛料に思えてきた最近です。
そういえば、僕が勉強していた南インドのアーユルヴェーダ病院では、関連施設でオーガニックスパイスを栽培していたので、問い合わせてみようと思います。皆さんのおすすめのコショウや、他スパイスなどございましたら、是非ともお教えください。
Sahanaメルマガ vol.189(2021年3月)より